猪突直進

人間の擬態で楽しいものこと場所へ赴く猪の忘備録。

雑食ないのししはエンタメもいただく。

ネバーランド☆A GO! GO!

全労済ホール/スペース・ゼロ提携公演

ハイブリッド・アミューズメント・ショウbpm
ネバーランド☆A GO! GO!』

http://www.never-go.com/?page_id=19

15年前の夏の終わり。あの時僕らは、方程式も、恋の味も、慣用句も、責任も、本能寺も、元素記号も、ジレンマも、倒立前転も、限界も、実写主義も、シューベルトも、現実も…。
何一つ、満足には知らなかった。何一つ。
ただ、あの言葉の意味だけは、みんな知っていたんだ。

誰にも言っちゃ、だめだよ。


≪≪≪≪≪≪≪ WARNING!≫≫≫≫≫≫≫
本作品にはホラー的なショック描写がございます。
心臓の弱い方、妊娠中の方、ホラー表現が極端に苦手な方はご注意ください。

(公演チラシ、公式サイトより引用)

 

見てきました。

昨年、浅沼晋太郎さんが作演出をされた*pnish*プロデュース 『RADIO KILLED THE RADIO STAR』を見て、過去に上演された浅沼さんのホラー処女作であるネバゴーが気になって気になって再演されないかなーなんてぼんやり希望を抱いていたところ、bpmの再演希望投票で見事一位に輝いたそうで今年無事に見に行くことができました。
これまでも何度も再演されてきた演目ですが、一応今回でフィナーレとのこと。
滑り込みでなんとか観劇できて、本当によかったです。


公演チラシの煽り文句と、ショック描写へのWARNINGからもわかる通り、夏にぴったりのホラーなお芝居でした。
というか、単純にこわいって意味でのホラーというより、ものすごくテーマパークのお化け屋敷的に、こわさを楽しむエンタメな空間ができあがっていたと思います。
まず開演前の諸注意などのアナウンスが、テーマパークのお化け屋敷的なアトラクションをめちゃくちゃリスペクトしています。親戚かな?ってくらい雰囲気が似ています。
まるでセーフティーバーを自ら上げてくれそうなアナウンスで、携帯電話の電源や開演後のおしゃべりについてやら、そういう諸注意をしてくれます。その前から流れているBGMもすごくテーマパークっぽい曲なので、雰囲気はばっちりでした。あのまま待ってたら舞台始まらなくてもセーフティーバーを降ろしてもらってアトラクションが始まってたと思う。そういうわくわく感。

これは昨年のRKRSの時もだったのですが、浅沼さんが作られるこわいお芝居、舞台の幕が上がる前から舞台の世界への導線がしっかり作ってあるのが個人的にとても好きです。

ネバゴーであればそういうアトラクション的な雰囲気作りだし、RKRSではお芝居の舞台となるラジオ局の番組が開演30分前から流れていました。

劇場に入って、チケットもぎってもらって、ロビーを通りぬけて座席についた瞬間からやまと放送局の公開放送ラジオの観覧待ちしてる時のような気持ちで着席できました。そのやまと放送局のラジオという体の中で劇場内での諸注意(携帯の電源オフ、帽子取る、座席蹴らないetc)を済ませてしまって、さらっとお芝居の世界へ導かれる感じ。

こういう所がめちゃくちゃ丁寧で無理なくお芝居への導線を引いてあるのが、浅沼晋太郎氏の作演が一から十まで理詰で作ってあるなあと感じる由縁でもあります。(そしてそういう所がめちゃくちゃ好きでもある) 

 

そして肝心のお芝居の内容。チラシ情報だけだとどんなお芝居だかわかり難いのですが、内容については千秋楽でも「誰にも言っちゃ、だめだよ。」とお達しがあったらしいので導入だけかいつまむとなんとなくこんな感じ。

ホラー番組の野外撮影中に台風に見舞われ、ある山荘で雨風をしのぎつつ撮影を続けることにしたとあるTV局の撮影クルーたち。けれど残りのスタッフは道に迷って合流できず、撮影は遅々として進まない。
そんな状況の中でプロデューサーの武藤は、かつて自分が取材した、この山荘で起こった事件について語り始めた。
ある学習塾の夏合宿でチームを組んだ講師と生徒達。彼らが十数年ぶりの再会を果たした所から始まる、凄惨な事件の全容を――

 

そんなわけで物語は、現代の撮影クルーたちが事件について聞いている場面と、かつて起こった事件の二つの時間を軸に進んでいきます。
何かが起こるタイミングで過去から現代へ切り替わるので全体的に場面転換のための暗転が多かったのですが、ホラーというジャンルの妙で、暗転による集中力切れが起こりませんでした。
これもたぶん考えて演出されているんだろうなーと思うのですが、例えば誰かが殺されてしまったかも!?みたいなタイミングで何かが起こっている音だけ残して暗転するわけです。
そうすると、こちらとしてはこれはなんの音だ!?って想像してしまいます。この音は犯人が立ててる音なのかもしれない、いまこの衝撃音で誰かが死んだかもしれない、気付かないだけでこの暗闇に犯人がまぎれているかもしれない……とそんな感じで。
なので、暗闇の間も意識を舞台に持って行かれっぱなしで、わりあい暗転が多用されていたなーと後から思い返しはするものの、見ている最中に我に返ってしらけるような集中力の切れはありませんでした。
ほかのジャンルのお芝居でも、暗転の最中に音で引っ張るって演出はよくあると思うしそれで集中力を保たせてる所ってあると思うんだけど、ホラーと暗闇って相性抜群だな!という風に改めて思いました。

内容に言及できないのでそれについてはDVD出てほとぼりさめたあとにでも覚えてたら触れようかなと思うんだけど、ホラーのジャンルとしては定番の山荘もので、集まった人間が一人また一人と殺されていく系のお話でした。全体的に王道でホラー好きな人からするともしかしたらベタだな!って思っちゃうくらいかもしれない。
でもその王道ベタともいえる惨劇を、丁寧に導線引いて、お客さんを引きこんで、登場人物のやりとりと、舞台上に現れる場面のビジュアルと、どきりとせずにはいられない音や照明で見事に演出して、ぐっと引き込まれるエンターテイメントなホラーとして上演している、そんな舞台でした。
そしてこれがものすごく浅沼さんを優しいな!と思ったポイントなのですが、ホラーが苦手な人でも劇場だけでその怖さを完結できるようなある種のオチが舞台の最後に仕掛けてありました。そこもまた、乗り物を降りて出口をくぐれば外に出られて終わりになるアトラクション的で、徹頭徹尾エンタメに徹するホラーというのはこういうものなんだな!と思いました。怖いだけで終わらせない所がめちゃくちゃ優しいな!と。

今回でフィナーレと大々的に公言されているくらいなので、今後また上演される可能性はもしかしたあまりないのかもしれないなーというのがものすごく残念です。ただ、作演の浅沼晋太郎さんの作られるホラーは、このネバーランド☆A GO! GO!も昨年のRADIO KILLED THE RADIO STARも、どう見せれば衝撃を受けて怖く感じるかを徹底的に計算して作られていたと思うので、今後またbpm及び浅沼晋太郎作演のホラー系作品が上演されるようなら決して大外れにはならない(むしろエンタメとしてのホラーとしては大当たりの)舞台になると思うので、来年の夏以降もなにか上演があるといいなあと期待してしまいます。

そんなわけで、夏にぴったりのネバーランド☆A GO! GO!、めちゃくちゃ楽しく期待を裏切らない舞台でした!見に行って良かったし、上演期間が短くて人におすすめできなかったのがめちゃくちゃ悔しい!

 

そして以下は、直接犯人に関わったりするような部分ではないけれど、私が一番怖かった人の話をちょっとだけ。

ネバゴーをご覧になったあなたは、いったいだれが一番怖かったですか?

 

わたしは、あの夏の切っ掛けの時点でなにを考えてるのかがまったくわからないので、人気者の彼が一番こわいなって思いました。

人間が一番怖いというのはなんとなくRKRSの時もそういう気持ちでお話書かれてるのかなーと思ったけど、人間って本当おそろしいな!って思います。

 

あと、最初のきっかけから山荘での再会までの期間が15年なの、特に15年という年月に言及がなかったけど、もしかしたら当時はまだ定められていた公訴時効の15年に由来するのかなーと思いました。

再演しません!というのは、そこら辺が時代の流れ的にさらっと流さず説明しないとわかりにくくなっていくからかなあとか。実際のところはどうなのかわかりませんけども。